フォーカシング・イリュージョン
ある状態になれば幸せになる、との思い込み。
【解説】
プリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマンの研究によると、年収7万5千ドルまでは年収が増えるほど幸福度は増していきますが、7万5千ドルを超えると年収が増えても幸福度は変わらないそうです。勿論、7万5千ドルは平均であり個人差はありますし、住んでいる国や地域により異なります。大事なのは、「年収は増えれば増えるほど幸福になれる」との思い込みは間違っている、との結論です。
この「ある状態になれば幸せになれる」との思い込みをフォーカシング・イリュージョンと言います。日本語では「幻想への憧れ」という感じでしょうか。
なぜ年収が増えれば増えれるほど幸せになるのは間違いなのか。
まず、消費金額と幸福度は比例しません。
1,000円のランチを食べて10,000円のディナーを食べた。さて10倍幸せでしょうか。50,000円の高級フレンチはらば50倍幸せですか。100,000円の超高級和食ならば如何でしょうか。
消費はある金額を超えると単なる贅沢にしかなりません。「こんな高級料理を食べた」との満足感を得ることはできるかもしれませんが、使った金額に比例して幸福感が増すことはないのです。
次に幸福は様々な要素で成り立っています。
例え500円の牛丼でも、恋人との食事であれば幸せを感じることはできます。また100,000円の超高級和食でも、お腹を壊していては楽しめないでしょう。
幸福感は家庭環境や健康状態など収入だけではない様々な要素で成り立っているのです。
【信憑性】
年収に限らず、ある状態なら幸せだと思い込んでしまう例は他にもあります。
・結婚すれば幸せになれる。
・転職すれば幸せになれる。
・ダイエットすれば幸せになれる。
結婚して幸せになれるかどうかは、相手にもよるでしょう。家庭内暴力、ギャンブル、浪費癖、過度の飲酒等々の問題のある相手では幸せになれるでしょうか。
今の職場の人間関係に疲れて転職しても、次の職場でどんな人間関係が築けるかは未知数です。人間関係に満足できても休暇が取れないなど、他の要素で不満となることもあります。
ダイエットも程度次第であり、拒食症になってしまっては本末転倒です。
人はある特定の事柄にこだわったために、それを過大評価してしまう傾向があるのです。
【適用例】
こだわりの代表例はブランドでしょう。バッグや衣料のブランド品では、一度購入するとその時は満足できても、新作が出ると買わずにいられなくなる。毎シーズンごとにバッグや衣料を買い続けてしまう。これでは依存症とも言える状態です。
街には、ラジュジェアリー感やエグゼクティブ感を煽る広告、美女を使ったポスターなどが溢れています。これらは消費者に「あのようになれたら幸せだな」と思わせることで、購買行動に結び付ける効果があります。
一方、フォーカシング・イリュージョンに陥らないためには、一旦立ち止まって本当に必要なものは何にかを考える必要があります。木を見て森を見ない状態にならないようにする必要があります。
「〇〇ならば幸せ」ということは、「〇〇でないと不幸せ」ということです。今の状態を否定したり、他人と比べて「あの人は〇〇、でも自分は・・・」と考えていては、いつまでたっても幸せになれないでしょう。
自分に取っての本当の幸せとは何か。
答えるのに意外と難しいかも知れません。