マネジメントの第一歩

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成長企業の経営者

成長企業の経営者

 

中小企業では所有と経営が一致していることが一般的です。そこから2023年版中小企業白書では、企業の成長には経営者の成長意欲やスキルの有無が戦略の構想と実行に大きな影響を与えるとし、経営者に焦点を当ています。

成長企業においては、経営者の就任前後で成長意欲に変化があったのでしょうか。

 

 

経営者の就任前後における成長意欲の有無を確認すると、就任前では「大いにあった」が51.7%、「ある程度あった」が37.0%であり、合わせると88.7%となります。就任後は「大いにあった」が69.2%、「ある程度あった」が27.4%であり、合わせると96.4%にもなります。経営者に就任したわけですから元々、成長意欲があったことは想像できます。それが実際に就任すると、より高まっていることが確認できます。

 

中小企業庁「中小企業の成長経営の実現に向けた研究会(第1回)資料4 事務局説明資料」によると、他の経営者や異業種・異文化の人物との接触が成長のきっかけとなったケースや、経営者仲間からの刺激が挑戦を後押ししたケースが確認されています。

そこで経営者就任前後の成長意欲の変化別に、経営者就任後に第三者とどの程度の交流があったのかを調べたのが次のグラフです。

 


「成長意欲が高まった」企業の方が、「成長意欲が高まらなかった」企業よりも第三者との交流が「よくあった」が42.7%、「時々あった」が41.2%であり合わせると83.9%と高い値を示しています。

外部との交流が経営者の成長意欲を高めるのに一役担っていることが分かります。

ではどのような第三者が成長意欲を高めるのに役立ったのでしょうか。

 

 

経営者就任前、就任後のいずれも「同業種の経営者仲間」と「異業種の経営者仲間」が高い値を示しています。業種を問わず経営者仲間との積極的な交流が、成長意欲の向上に結び付いています。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

成長企業の新規事業創出

成長企業の新事業創出

 

経営戦略の類型を分類したモデルとしてイゴール・アンゾフの「成長ベクトル」が有名です。「成長ベクトル」では市場を既存の市場と新規の市場に分け、自社の製品・商品・サービスを既存と新規に分けて「市場浸透戦略」、「新商品開発戦略」、「新市場開拓戦略」、「多角化戦略」の4つの戦略に分類しています。

2023年版中小企業白書では、「市場浸透戦略」を既存事業拡大とし、「新商品開発戦略」、「新市場開拓戦略」、「多角化戦略」の3つを新事業創出を位置付けています。その上で成長企業の新事業創出に関して、分析しています。

 

 

まずは直近10年間における既存事業拡大と新規事業創出への取組の状況です。

 

 

成長企業のうち59.8%の企業が既存事業拡大に取り組み、51.7%の企業が新規事業創出に取り組んでいます。新規事業創出には新商品開発も含まれていますので、高い値になったと思われます。

ではそれぞれの取組が自社の成長にどの程度、寄与したのでしょうか。

 

 

既存事業拡大では、「大いに寄与した」が31.7%、「ある程度寄与した」が60.7%であり、合わせると92.4%の企業が自社の成長に寄与したと考えています。

新規事業創出では、「大いに寄与した」が26.6%、「ある程度寄与した」が56.7%であり、合わせると83.3%の企業が自社の成長に寄与したと考えています。

企業の成長には、既存事業の拡大と新規事業の創出がともに欠かせない要因であることが分かります。

新事業を創出する際、どのような経営資源を活用したのか。

次のグラフは新規事業創出に取り組んだ際に、既存事業で培った経営資源を活用したかを調べたものです。

 

 

「大いに活用した」が37.5%、「ある程度活用した」が52.2%です。合わせると92.7%の企業が既存事業で培った経営資源を新規事業創出に活用しています。

その既存事業で培った経営資源ですが、活用した企業と活用しなかった企業での新規事業創出での成長の寄与度に関して、確認しましょう。

 

 

活用した企業における「大いに寄与した」が28.4%、「ある程度寄与した」が59.1%であり、合わせると87.5%となります。

活用しなかった企業における「大いに寄与した」が15.0%、「ある程度寄与した」が35.4%である、合わせると49.4%です。

既存事業で培った経営資源が、新規事業創出に貢献していることが分かります。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

成長企業の経営資源の分析

成長企業の経営資源の分析

 

前回に続いて戦略策定における分析の詳細です。ターゲット市場に関して確認致しましたので、今回は自社の経営資源に関して分析の詳細を見ていきます。

まず経営戦略を実行した際の経営資源の強みがどのようなものであったのか、の確認です。

 

「顧客からの評価に結び付き、他社が保有しておらず、他社がまねもできない」の9.5%と「顧客からの評価に結び付き、他社が保有していない」の23.2%を合わせると32.7%となります。約3分の1の企業が他社が保有していない強みを活用していることが分かります。

一方、「顧客からの評価に結び付いている」が67.3%となっています。しかし、他社も保有している強みです。経営戦略の実施時に活用した経営資源を他社が保有しているのか、保有していないのかにより売上高に差はあるのでしょうか。

 

経営戦略の実行時に他社が保有していない経営資源を活用した企業の売上高増加率は35.0%です。他社も保有している経営資源を活用した企業の売上高増加率は34.0%ですので、他社が保有していない経営資源を活用した企業の方が売上高増加率がやや高いことが確認できます。

次のデータは、経営戦略を実施する際に活用した経営資源が他社が保有していないか、保有しているか別に顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にしたか、明確にしなかっかを調べたものです。

 

経営戦略の実施時に活用した経営資源を他社も保有しているか、保有していなかいかに関わらず、「顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にした」ほうが売上高増加率が高くなっています。特に経営資源が顧客からの評価に結び付いていれば、その経営資源を他社が保有していても「顧客、顧客への提供価値、顧客への価値の提供方法を明確にした」のであれば、明確にしなかったよりも10%(35.0%-25.0%)も売上高増加率が高くなることが分かります。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

成長企業のターゲット市場

成長企業のターゲット市場

 

経営戦略策定の起点として、ターゲット市場と自社の経営分析が多いことは先のデータで確認しました。

では、実際にどのような分析を行って経営戦略を策定しているのでしょうか。

まずはターゲット市場に関して、その分析の詳細を見ていきましょう。

 

 

上記のグラフはターゲット市場をどんな視点で分析したのかを調査したものです。

一番多いのは「ターゲットとする顧客の特徴」であり62.3%、次いで「競合他社の製品・商品・サービスの特徴や参入動向」であり59.2%となっています。

分析の結果、どんな市場を選んだのでしょうか。

 

 

選定した市場では、「どちらかといえば競合他社が少ない市場」が最も多く41.8%です。一方、「競合他社が多い市場」も16.9%ほどあります。競合他社が多ければ、それだけ競争も激しいことが想定できます。では競合他社はいないほうが良いかと言えば、そうでもなく「競合他社がほとんどいない市場」を選んだのは5%程度です。競合他社がいないということは、市場の規模が小さい、技術的・商慣習的な参入障壁がある等競合他社も参入しない理由があると思われます。

では競合他社が多ければ競争が激しくなると想定できながら、なぜそのような市場を選んだのでしょうか。

 

 

「非効率な部分を標準化して効率化することで、競争優位に立つことが可能」と「競合他社にない製品・商品・サービスが提供でき、差別化を図ることが可能」を理由とする企業は、それぞれ「当てはまる」と「どちらかといえば当はまる」を合わせると7割以上存在しています。何らかの要因により競合他社の多い市場であっても、優位性が発揮できると考えているようです。

また「市場自体が大きいため、参入すれば一定の売上高・利益を確保することができる」では、「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」を合わせると6割強となっています。「市場自体が成長しているため、参入すれば一定の売上高・利益を確保できる」では、「当てはまる」と「どちらかといえば当てはまる」を合わせると5割強となっています。競合他社との優位性よりも、規模や成長性に魅力を感じて市場を選定している様子が見て取れます。
競合他社との優位性を築くにも、規模や成長性に期待できる市場を選ぶにも経営資源は不可欠です。

ターゲット市場を選ぶ際、必要となる経営資源をすでに確保していたのでしょうか。

 

 

「確保できていた」と「どちらかといえば確保できていた」を合わせると約8割になります。

経営資源の裏付けがあればこそ、ターゲット市場を選ぶことができたことが分かりました。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

成長企業の経営戦略

成長企業の経営戦略

 

日本経済や地域の発展のためには、日本の企業の99.7%を占める中小企業の成長が不可欠です。感染症の流行や円安などの環境変化が発生しているにも関わらず、成長している中小企業は存在します。2023年版中小企業白書では、2020年~2021年の売上高が2期連続で増収しているなどの企業を成長企業と定義づけて分析しています。

 

まず白書が着目しているのが、経営戦略の有無です。

 

直近10年間の中小企業における戦略策定の状況です。71.4%もの企業が経営戦略を策定した、と回答しています。

 

経営戦略を策定するにあたり、策定のベースとなるものは幾つか在あります。その中でもターゲット市場と自社の経営資源をベースに戦略を策定することが多いと思われます。次のデータは成長している中小企業に経営戦略の策定にあたり何をベースにしたのかを調べたものです。

 

「ターゲットとする市場の分析を起点とした」が36.0%、「自社の経営資源を起点とした」が58.1%でした。半分以上の企業が自社の経営資源を起点としているのは、経営資源に乏しい中小企業ならではの結果かと思います。

経営戦略を策定するには、まずは自社の経営資源の棚卸を行う必要があります。

これはターゲット市場と起点として経営戦略を策定した企業にも当てはまりそうです。

 

 

ターゲット市場の分析を起点に経営戦略を策定した企業でも自社の経営資源の分析を「十分に行った」企業と「ある程度行った」企業を合わせると9割以上にもなります。

 

では自社の経営資源を起点として経営戦略を策定した企業は、どれくらいターゲット市場を分析したのでしょうか。

 

 

自社の経営資源を起点として経営戦略を策定した企業であってもターゲット市場の分析を「十分に行った」企業と「ある程度行った」企業を合わせると8割以上になります。

ターゲット市場と自社の経営資源のどちらを経営戦略策定の起点にしても、経営資源のとターゲット市場の分析は行っていることが分かりました。

ところでターゲット市場を分析して、その結果から何を導いたのでしょうか。

次のデータで確認したいと思います。

 

「ターゲットとする顧客を具体的にイメージした」、「ターゲットとする顧客に届ける価値を明確にした」、「ターゲットとする顧客に対してどのように価値を届けるかを明確にした」のいずれも「十分に行った」と「ある程度行った」を合わせると、9割前後となっています。

「誰に」「何を」「どのように」届けるのか。

この結果から、ターゲット市場の分析の目的が見えてきます。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

コア技術への理解

コア技術への理解

 

イノベーション活動は、自社の強みを軸に進められることが多いでしょう。

そのためには、まず自社のコア技術を認識する必要があります。

 

自社のコア技術の認識状況別にイノベーションの事業化状況を見ますと、「自社のコア技術の強みを認識している」企業ほどイノベーションの事業化に成功しており、33.0%の企業は利益増加につながっています。

「自社のコア技術の強みはない・保有していない」企業もまずは技術の棚卸を行い、自社のコア技術に関して見つめ直してほしいと思います。

 

またコア技術はあっても市場のニーズに適合していなければ、イノベーション活動を進めても利益に繋がりません。次のデータは、新たな市場ニーズの探索状況別に見たイノベーションの事業化状況です。

 

 

新たな市場ニーズの探索に「取り組んでいる」企業は、「取り組んでいない」企業の2倍ほどの割合で「事業化して、利益増加につながった」と回答しています。自社のコア技術だけではなく、市場ニーズを把握してこそ事業化に至り利益増加となることが伺えます。

 

コア技術があり、マーケットのニーズを把握したから言って、イノベーションが成功するとは限りません。コア技術とニーズとをマッチングさせるには戦略やその戦略を構想する人材が必要となります。次のデータでは、コア技術・ノウハウをマーケットニーズとのギャップを埋め合わせ、戦略を構想・実現する人材からの支援があった場合、新製品・サービスの事業化につながると思うか否かを確認しています。

 

 

売上高比研究開発費別に、コア技術・ノウハウとマーケットニーズをつなぐ人材の重要性を見ています。売上高に対する研究開発費の比率が高い企業ほど、自社のコア技術・ノウハウとマーケットのニーズとのギャップを埋め合わせる人材の重要性を認識しています。

市場のニーズがあり、それに適合するコア技術・ノウハウがあり、そして戦略を立案・実行できる人材がいてこそイノベーションが実現し利益が増加することが確認できました。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)

中小企業のイノベーション

中小企業のイノベーション

 

2023年版の中小企業白書では、中小企業がイノベーションに取り組む姿を紹介しています。イノベーションには様々な形態がありますが、典型的なのは研究開発活動でしょう。

まずは企業規模別、業種別に見た研究開発費と売上高比研究開発費の推移を見てみましょう。

 

 

大企業、中小企業ともに製造業においては研究開発費が上昇傾向にあります。しかし、売上高比研究開発費で比べると、大企業の製造業は約6%であるのに対して中小企業の製造業では1%もありません。大きな開きがあることが確認できます。

 

次に従業員規模別にどのようなイノベーションを実現しているかを見たデータです。

 

 

2017年から2019年までの3年間のイノベーションの実現状況であり、ここではイノベーションをプロダクト・イノベーションとビジネス・プロセス・イノベーションに区分して調査しています。従業員規模が大きいほどイノベーションを実現していることが分かります。プロダクト・イノベーションでは、大規模企業は中規模企業、小規模企業の2倍以上の割合となっています。しかし、ビジネス・プロセス・イノベーションではそこまでの差になっておらず、中規模企業、小規模企業もビジネス・プロセス・イノベーションに取り組んでいる姿が見て取れます。

 

では、イノベーションに取り組むことで、どのような効果を得ることができたのでしょうか。

 

ここでは競合他社が導入していない全く新しい取り組みを「革新的なイノベーション」と定義づけて調査しています。その結果、「競合との差別化」、「販路拡大(海外・国内)」、「顧客満足度向上」においては、「革新的なイノベーション活動に取り組んでいる」企業のほうが高くなっています。

一方、「既存業務の効率化」、「コスト削減」、「社員の能力向上」に関しては、「革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる」企業のほうが高くなっています。

このことから「革新的なイノベーション活動に取り組んでいる」企業は外部環境に効果をもたらしていますが、「革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる」企業のほうは内部環境に効果をもたらしていることが分かります。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)