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ダイナミック・ケイパビリティの強化

ダイナミック・ケイパビリティの強化

 

ケイパビリティとは、企業の固有の資源を強みとして活用する能力です。

カリフォルニア大学バークレイ校ハース・ビジネススクール教授のディビッド・J・ティース氏は、従来のケイパビリティの概念をオーディナリー・ケイパビリテとダイナミック・ケイパビリティに分け、今のような不確実性の高い状況ではダイナミック・ケイパビリティが重要であると説いています。

オーディナリー・ケイパビリティとは、与えられた経営資源をより効率的に利用して、利益を最大化する能力です。ティース氏によれば、オーディナリー・ケイパビリティとは「ものごとを正しく行う」ことであり、企業にとって重要な能力です。

しかし、環境や状況に想定外の変化が起きた場合、オーディナリー・ケイパビリティが優れていればこそ、その能力に縛られて変化に対応できなくなってしまいます。そこで環境や状況の変化に対応して企業自身が自らを変えていく能力、ダイナミック・ケイパビリティが重要となります。

2020年版ものづくり白書では、日本の製造業が優れたオーディナリー・ケイパビリティ持っているが故に、不確実性が危険となる、と説きダイナミック・ケイパビリティ論に着目しています。

 ティース氏によれば、オーディナリー・ケイパビリティが「ものごとを正しく行う」ことであるのに対し、ダイナミック・ケイパビリティは「正しいことを正しく行う」ことです。その上でダイナミック・ケイパビリティを3つの能力に分類しています。

感知(センシング):脅威や危機を感知する能力

捕捉(シージング):機会を捉え、既存の資産・知識・技術を再構成して競争力を獲得する能力

変容(トランスフォーミング):競争力を持続的なものにするために、組織全体を刷新し、変容する能力

 

資産を再構成する能力は企業家的な能力であり、企業内部で構築しなければならない文化的なものです。それ故に他の企業には模倣困難となり、長期的な強みとなるものです。

白書にオーディナリー・ケイパビリティとダイナミック・ケイパビリティの相違点をまとめた表が掲載されていますのでご紹介いたします。

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白書では、製造業のダイナミック・ケイパビリティを検討するにあたり、1事業所当たりの付加価値額の推移を確認しています。

 

      平成以降の製造業事業所数と1事業所当たりの付加価値額の推移

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 事業所の数は減少しながらも、1事業所当たりの付加価値額が上昇しています。

続いて労働生産性の変化を確認します。ここでの労働生産性は、GDP/就業者数で計算しています。

 

         製造業・非製造業における労働生産性の推移

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 1事業所当たりの付加価値額と同様、製造業における労働生産性が上昇傾向にあります。平成以降、バブル崩壊、アジア金融危機リーマンショック、欧州債務危機東日本大震災等の不測の事態や環境変化に遭遇しながらも、我が国の製造業は付加価値額も労働生産性も上昇させてきました。

このことから白書では、我が国の製造業はダイナミック・ケイパビリティを有している可能性が高い、と判断しています。

 その上で、主要先進7か国(米国、英国、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本)の製造業の労働生産性を比較しています。

 

    製造業の実質労働生産性の時系列変化(2010年を1としたときの上昇率)

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 他の国と比べてより高い上昇率を示していることから、白書では日本の製造業はダイナミック・ケイパビリティのみならず、オーディナリー・ケイパビリティにおいても比較的優れている、と指摘しています。

 

(図表は2020年度版ものづくり白書より引用)