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中小企業における理念・ビジョンの策定

中小企業における理念・ビジョンの策定

 

2022年版中小企業白書では中小企業が経営力を高める取り組みとして、経営理念・ビジョンの策定と浸透を挙げています。

そもそも経営理念・ビジョンとは、Collins・Porras(1995)によれば①コアバリュー、②パーパス、③ミッションの三つの要素で構成されるとしています。

下図は経営理念・ビジョンと経営戦略・経営戦術の関係を示したものです。ここでは優れた経営理念・ビジョンの条件として、「明確さ」(組織内できちんと理解されていること)と、「共有」(組織成員が賛同し、組織に浸透していること)の二つの条件を指摘しています。この条件を満たしていない組織は、取り巻く環境の変化や課題に対する経営戦略が曖昧となり、対症療法的な経営判断や戦術遂行とならざるを得ません。

 

 

ではどれくらいの企業が経理念やビジョンを明文化しているのでしょうか。

下のグラフで確認しましょう。

 

経営理念・ビジョンを明文化しているの企業は87.1%となっています。かなりの割合の企業が経営理念やビジョンを明文化していることが分かります。

その経営理念やビジョンは、取引先の属性と何か関りがあるのでしょうか。

 

どの顧客属性でも「顧客満足・顧客獲得」を挙げている企業が多い結果となっています。次いで多い内容は「社員の幸福」でした。

BtoCとBtoBを比べると、BtoCではBtoBよりも「顧客満足・顧客獲得」を挙げている企業の割合が10%近く多くなっています。またBtoBのほうがBtoCよりも「高品質、技術・サービスの向上、イノベーション」を挙げている企業が約20%程度多くなっています。このように顧客の属性により自社のどの部分を見てほしいのか、意識の違いがあるようです。

下のグラフは経営理念・ビジョンの内容と労働生産性の関係を見たものです。

 

 

総じて言えることは、経営理念・ビジョンが策定され明文化されていれば労働生産性が上昇し、策定されず明文化もされていなければ労働生産性が低下していることです。経営理念・ビジョンを策定し明文化することで、環境変化に対してどのように対処すべきかの課題が明確になることが期待できます。経営課題が明確でなく曖昧であれば、従業員達は何に注力すべきか判断できず、生産性が低下することが考えられます。

白書では、経営理念・ビジョンを策定した動機やきっかけを調査しています。

 

経営理念・ビジョンを策定した動機・きっかけとして最も多かった回答は「事業の承継・経営者の交代」であり、「会社創業」よりも多くなっています。「会社創業」においては創業者の想いがそのまま経営理念やビジョンになるのでしょうが、事業承継や経営者が交代すると創業者の想いを引き継ぐならば再確認する必要が生じますし、新たに策定する場合も今一度目指すべき方向を見定める必要が生じるでしょう。

また「企業規模の拡大・事業内容の変化」や「外部環境の変化」と応える企業も存在していることから、内部環境や外部環境の変化も経営理念・ビジョンを策定するきっかけとなっていることが分かります。

下のグラフは策定の動機・切っ掛け別に見た、経営理念・ビジョンが従業員の統率やモチベーション向上にどれくらい寄与したかを調べたものです。

 

経営者による回答ですが、社内外の変化を受けて経営理念・ビジョンを策定した企業の方が創業時に策定した企業よりも従業員の統率やモチベーションの向上に寄与していることが見て取れます。

 

(図表は2022年版中小企業白書より引用)