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生産性の現況

生産性の現況

 

前回では労働者の賃金に関して見てきました。

では企業としての生産性はどのような状況なのでしょうか。

 

 

上のグラフは、企業規模及び製造業と非製造業で一人当たりの付加価値額を見たのものです。本来、労働生産性は付加価値額を「労働者数×労働時間」で除して求めますが、ここでは付加価値額を「労働者数」で除しています。

グラフを見ると、製造業、非製造業ともに大企業の労働生産性は、中小企業の労働生産性の倍以上となっていることが一目瞭然となっています。また大企業製造業では2021年度に労働生産性を向上させていますが、中小企業においては製造業、非製造業ともに2003年から横ばいの状態が続いています。

 

では生産性はどのような要因により変化するのでしょうか。

白書では、開業や成長、倒産・廃業等のライフサイクルの構成要素から明らかにした金、深尾、権、池内(2023)「新型コロナウイルス感染症流行下の企業間資源再配分:企業ミクロデータによる生産性動学分析」から生産性の変化要因を紹介しています。

下図は、生産性の変化要因を「①市場参入による効果」、「②資源の再配分による効果」、「③企業内部の生産性変化による効果」、「④市場退出による効果」の四つに分解し、それぞれの要素が示す効果について見たものです。

 

以下、青字の部分は白書からの引用です。

「市場参入による効果」は、企業が起業・創業等によって市場に新規参入をした効果を指している。新規参入した企業の生産性が業種平均より高い場合には、「市場参入による効果」は生産性をプラス方向に押し上げる。

「資源の再配分による効果」は、存続企業のシェアの変化による寄与度を表している。存続企業として、業種平均より生産性が高い企業が売上シェアを拡大した場合や、生産性が伸びる企業が売上シェアを拡大する場合、「資源の再配分による効果」は生産性をプラス方向に押し上げる。

「企業内部の生産性変化による効果」は、存続企業における生産性の水準変化のみによる寄与度を表している。存続企業が生産性を高めた場合、「企業内部の生産性変化による効果」は生産性をプラス方向に押し上げる。

「市場退出による効果」は、倒産・廃業等によって企業が市場から退出した効果を表している。市場から退出する企業の生産性が業種平均より低い場合に、「市場退出による効果」は生産性をプラス方向に押し上げる

 

この分析では2007年から2021年までの期間を3つの期間に分けて生産性の変化を確認ています。まず第1期は2007年から2012年まで、第2期は2012年から2018年まで、第3期を2018年から2021年としています。第1期はリーマン・ショック、第3期は感染症流行下と経済に大きな影響を与えた事象と重なっています。

次のグラフは3つの期間において生産性の変化をどの要因がもたらしたのかを全要素生産性労働生産性に分けて評価したものです。全要素生産性とは、2017 年版中小企業白書によると、「資本や労働といった生産要素の投入量だけでは計測することのできない全ての要因による生産への寄与分」とされています。また労働生産性は、「労働時間当たりどれだけ効率的に付加価値を生み出したかを定量的に数値化したもの」です。。

 

以下、青字の部分はこのグラフに対する白書の分析です。

TFP の変化率における、各効果の寄与について見ると、「市場参入による効果」、「資源の再配分による効果」が第1期から第3期にかけて継続してプラス方向への押し上げ要因となっている。一方で、「市場退出による効果」は常にマイナス方向への押し下げ要因となっている。「企業内部の生産性変化による効果」については、時期に応じて大きく変化し、第2期においては上昇要因となっているが、期間中にリーマン・ショックの発生を含む第1期、感染症の流行期を含む第3期においては低下要因となっていることが分かる。
続いて、労働生産性(千円/時間、2015 年価格)の変化額における、各効果の寄与
について見ると、「企業内部の生産性変化による効果」が大きいことが、労働生産性
上昇・下降の主な要因となっていることが分かる。このことから、存続企業の生産性
の変化が、労働生産性の変化に最も寄与していることが分かる。

以上のように、TFP労働生産性の変化要因の分析においては、結果に大きな違い
が生じている。中小企業庁(2017)によると、「労働生産性の上昇率=TFP の上昇率+
資本分配率×資本装備率の上昇率」が成り立つとされている。また、企業内部の生産
性変化においては、存続企業が機械や設備への投資によって資本装備率を上昇させる
ことで、労働生産性の上昇率に寄与することがあることが考えられる。このことから、
中長期的な生産性の向上の観点からは、TFP の安定的な上昇を見ることが重要とされ
ている。

 

以上により白書では、引き続いてTFP の上昇率の変化要因を規模別・業種別に分析していますが、ここでは省略致します。

ご興味をお持ちいただけましたら2023年版中小企業白書をご覧ください。

 

(図表は2023年版中小企業白書より引用)